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サメ胴は外見的な良さや珍しさ、最高級の胴としての附加価値もあり、値段的に決して安くない。
当然ながらそこには最高級品を作るに当たって、職人の知恵や技術が終結されている。
サメ胴作りは「手間のかたまり」と職人は言うがやはりその言葉の裏に隠された目に見えない気遣いや苦労があった。
サメ胴を完成させるに当たって、まず竹で土台を作り、その上に牛の生革を貼る所までは、普通の竹胴と同じ工程のように見えたが、その下地の段階において長年、竹や牛の生革などの素材と付き合ってきた職人の「勘」が既に使われていた。
竹胴に使う竹も竹刀と同様、良し悪しがある。
又、出来上がりを考えなるべく軽い竹を選びたいところだが、ただ軽いだけでは、やはり強度面での問題がある。
竹は土壌、日当たり〈日表・日裏〉、形〈普通竹は、丸いものだと思いがちだが、物によって少し楕円形をした物や、形が歪な物がある〉等の条件により一本の中でも当然良し悪しが出てくる。
このさまざまな性質の持った竹を、長年培ってきた職人の「勘」で見極め最高級品を作るに当たっての第一歩が始まっていた。
やはり竹は、長年付き合わないと、その良し悪しが分からないという。
その特別に厳選された竹で土台が丁寧に作られその上に牛の生革を貼っていく。
牛の生革の上にサメ革を貼ることも考え牛革も厚すぎず薄すぎずといったように特別に厳選された物が使われる。
下地ができた後、ようやくサメ革を貼る事になるのだが、これも海外より仕入れた革をそのまま貼るわけにはいかない。
まず、サメ革の表面を綺麗に掃除しなければならない。
それから革の裏面を下地へ綺麗に貼れる様に調整する。
サメ革は水に浸すと乾燥している時では分からない凹凸が裏面にでてくる。
これはエイの肉を皮から削いだ残りで、これを包丁で丁寧に削がなければならない。
その後、やっと下地へ貼る事ができる。
貼ると言うのは言葉では簡単に言えるが下地の牛革を合わせ二重に貼る事になり、さらに元の形に戻ろうとする性質のある革を、胴の曲面へ綺麗に貼り合わせるのは至難の技である。
こうしてサメ革が貼られた胴台の下地が出来上がる。
ここまでの、作業工程を考えただけでも職人の言う「手間のかたまり」という意味が感じられる。
こうして出来上がったサメ胴の下地を注文によりツルツルした研磨仕上げ、又は石目仕上げにする。
ツルツルした研磨仕上げは何度も漆を塗り重ね、塗っては乾かすという工程を繰り返す。
又サメ革の凹凸は、一枚一枚違う為塗る回数もその革に応じて変わってくる。
石目仕上げは、表面が漆で埋められていない分、塗り重ねていく回数が、少ないように感じられるが研磨仕上げと塗り重ねていく回数は同じだと言う。
ただ、研磨仕上げとは違い、漆の塗る厚みを調整し粒の凹凸が埋まらないように塗り重ねていく。
又甲手の布団などが当たった場合などに擦れないように一定の凹凸感を出し、粒の表面を綺麗に研磨しツヤを出していく。
こうして、「手間のかたまり」が集結したサメ胴は、出来上がる。
そして一枚一枚丁寧に作り上げられたサメ胴は、職人の隠れた苦労や、そして細かい気遣いを内に秘め剣士へと手渡されていく。 |